読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

不死身の漢!

このサイトは私ことジョンが映画、アニメ、ゲームの批評、解説をするサイトです。

『ミッション・インポッシブル ローグネイション』を考察② 劇中に流れる『トゥーランドット』の意味と「謎かけ姫」。

映画批評 その他

f:id:nightstalker0318:20150902211058j:plain

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]

 


注意:この記事は『ミッションインポッシブルローグネイション』の軽いネタバレを含んでいます。鑑賞するまで何も知りたくないという人はご注意ください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「夜になると生まれ、明け方には消えてしまうのモノは何だ?」
「それは希望」

「火のように燃え上がるが火でないもの。しかし焔(炎)のように熱いものは何だ?」
「それは血潮」

「氷のように冷たいもの。しかし焔のように周りを焼き焦がすものは何だ?」
「それはトゥーランドット姫。あなた自身だ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今回の『ローグネイション』の中で、ウィーンの国立劇場(実際に現地で撮影!)でオペラが行われる中、主人公がオーストラリア首相の暗殺を食い止めようとするシーンがありますが、その中でずっと流れているオペラはプッチーニの『トゥーランドット』です。

 

『トゥーランドット』のストーリー

古代の中国に、氷のように冷たい心を持つ美しい姫がいました。その姫は求婚してくる男たちに三つの謎かけをして、答えることができたなら結婚すると宣言していました。しかし答えることが出来なければ首を切り落として処刑してしまうとも。こうして数多くの男たちが首を切り落とされてきました。
そんな北京に自分の国を追われたカラフ王子がやってきます。彼はトゥーランドット姫の美しさに一目ぼれしてしまい、彼女に結婚を申し出ます。
かくしてカラフ王子はトゥーランドット姫の出す謎解きに挑戦しますが、彼はそれに対し3つとも全て答えることができました。しかしトゥーランドット姫はカラフとの結婚を嫌がります。
そこでカラフ王子はトゥーランドット姫に「あなたは私の名を知らない、明日の夜明けまでに答えることができたなら望み通り私は死のう」と申し出ます。
トゥーランドット姫は街に住む全ての住人に対し、夜が明けるまでに彼の名前を突き止めるように言います。それができなければ街の人間を全員処刑するというのです。
街の住人達はカラフ王子の女従者であるリューを捕まえて、彼の名前を教えるように拷問にかけます。しかしリューもまたカラフを愛していました。彼女は口を閉ざし、衛兵の剣を奪い取り、自害してしまいます。
しかしその献身の姿を見たトゥーランドットは大きく心を動かされ、彼女の心の氷が少しづつ溶け始めます。
心の傷ついたトゥーランドットと二人きりになったカラフは彼女に熱い接吻をして、自分の名前がカラフであることを告げます。
命を顧みず、自分のために名前を明かしたカラフをトゥーランドットもとうとう愛するようになりました。
彼女は皇帝と街の住人達の前でこう言い放ちます。
「彼の名は、『愛』です。」
こうしてトゥーランドット姫とカラフ王子は結婚したのでした。


ザルツブルク音楽祭2002 TURANDOT トゥーランドット(日本語字幕) - YouTube


プッチーニ 《トゥーランドット》「誰も寝てはならぬ」デル・モナコ - YouTube

 

『ミッション・インポッシブル ローグネイション』と『トゥーランドット』

上記が『トゥーランドット』のストーリーですが、これが今回の『ローグネイション』の物語を理解するうえで大きなカギになります。

『ローグネイション』の中で悪の組織「シンジケート」が主人公イーサン・ハントを苦しめますが、その一員である女スパイのイルサはイーサンを翻弄し、同時に何故か彼を助けるなど、敵なのか味方なのかがまるでわかりません。彼女は毎回現れては謎だけを残し、イーサンの前から消えてしまいます。
物語の中盤に彼女はイーサンに対してある「3つの謎かけ」をします。それに対してイーサン・ハントは終盤にある答えを出します。これによって、これまで不利だった戦いの形成が逆転するのです。

このイルサという女キャラクターと「3つの謎かけ」は、『トゥーランドット』の中で出てくる氷の心を持つ王女トゥーランドット姫がモデルになっています。
『トゥーランドット』は世界中にある「謎かけ姫物語」と言われるジャンルの代表的な作品だと言われています。
「謎かけ姫物語」とは物語の中で王女、またはヒロインが登場人物に対して謎を突き付け、それが物語の重要なキーになるお話のことです。
王女が求婚者に謎を出す、もしくは逆に求婚者に謎を出させて王女がそれを解くなど、作品によって違いがあるものの、

男がその謎を解ければ王女と結婚でき、解けなければ命が奪われる。

という点では共通しています。命をかけたゲームを愛する人とするわけです。
日本では求婚者に貢ぎ物を要求する『かぐや姫』がこれに近い話と言われ、グリム童話などでも「なぞなぞ」というお話が、この「謎かけ姫」を強く意識したお話しだと言われています。

今回の『ローグネイション』もこういった「謎かけ姫物語」というジャンルの一つなのです。

f:id:nightstalker0318:20150902211305j:plain
謎の女スパイ、イルサ。ある事情によって心を閉ざしている。
彼女の謎を解き、その心を開けるかが今作のキーポイント。

 

 

世界中にある「謎かけ姫物語」の系譜。
「謎かけ姫」の起源は中東、ペルシャにあると言われ、ペルシャ文学の中で最も有名な人物ニザーミー・ギャンジェヴィーが10世紀ごろに書いた『ハフト・パイカル(七王妃物語)』がその中で最も古いものだと言われています。

七王妃物語 (東洋文庫 (191))

七王妃物語 (東洋文庫 (191))

 

 

f:id:nightstalker0318:20150831060110j:plain
ニザーミー・ギャンジェヴィー(1141-1211)。ペルシャ文学の巨人。
5編からなる叙事詩『五宝』は世界遺産に登録されている。

 

この『七王妃物語』は古代ペルシャの王、バフラム5世が妃である7人の王女からそれぞれ7つの国の物語を聞くというお話。その中の一つスラヴの国の王女が語る物語で、求婚者に謎を出し、答えられない者を処刑する残酷なロシアの王女に、勇敢な王子がその謎に挑み、それを解いたことで二人が結ばれるという話があります。おそらくこれが最も古い「謎かけ姫」です。

この「謎かけ姫物語」はその後、14世紀に東洋学者だったペティ・ド・ラ・クロワによってヨーロッパに伝えられます。それが『千一日物語』です。(「千一夜物語」とは別物)
『千一日物語』はオムニバス形式の物語ですが、その中の一つが『カラフ王子と中国の王女の物語』で、これが原型となり、その後ヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツィが18世紀にこれを戯曲にし、それを元にしたのがプッチーニの『トゥーランドット』なのです。

 

 

「謎かけ姫物語」とは愛を得るための試練の物語。

「謎かけ姫物語」の中では、大抵女性は男性のことを信用しておらず、結婚するための条件として謎かけをします。答えられない者の命を奪うのは、「愛しているのなら覚悟を見せろ」という意味なのです。
この試練に打ち勝ち、自分の身を捨てるほどの献身的な愛を証明したものだけが、女性からの愛を受けることができるのです。これがペルシャのロマンス作家であったニザーミーから始まり、ヨーロッパへと伝わってロマンス文学全体の思想に大きな影響与えた「謎かけ姫物語」です。

『ローグネイション』の中でも、レベッカ・ファーガソン演じるイルサは最初、イーサン・ハントのことを完全には信用していません。何度も彼を救いますが、彼の味方にはならず、敵であるシンジケートの一員としても働き、シンジケートとイーサンとの間を行ったり来たりします。彼女はある事情から、人を信用することができず、誰とも仲間になることができないのです。
そして彼女はイーサンに対して「3つの謎かけ」をします。これはつまり、その答えによって彼女はイーサンと共に生きる決心を固めるということなのです。
終盤、人質を取られたイーサンはイルサが見守る中、シンジケートのボスに対して決定的な「取引」を持ち掛けます。これこそがイルサの謎かけに対するイーサンの答えなのです。これによってイーサンは決定的な覚悟と正義をイルサに証明し、そのことによって彼女の心を掴むことができます。
『トゥーランドット』の中で王子カラフは命を賭けた「3つの謎かけ」に挑戦し、さらに自分を愛してくれた従者を殺されるという悲劇、試練に直面します。しかし尚もトゥーランドット姫に自身の献身的な愛を証明することで彼女の心の氷を溶かし、彼女の愛(信頼)を獲得します。
『ローグネイション』でも、劇中イーサンは数々の試練を乗り越え、その中で自分の仲間に対する献身を証明したことで、人を信じることができないイルサの閉じた心を開かせてみせるのです。

f:id:nightstalker0318:20150831061352j:plain

 

誰かの愛を得たいなら自分のことを考えるのをやめろ!

つまり「謎かけ姫物語」は「愛を得るための試練」の物語であり、そこから得られる教訓は、人が誰から愛されるためには自分自身が見返りを求めずに献身的に相手に尽くすことが必要だということです。
それこそが「愛」であり、キリスト的に言えば「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」ということです。
これは「誰かのために果たして自分の身を犠牲にできるか」という試練であり、「愛」と「寛容」というものを知る高尚な人間になっていくための通過儀礼なのです。

考えてみれば、「献身」とは大人であれば必ず持っていなくてはならないものである気もします。人は子供のころは世の中のことが良く分からず、親に守ってもらっても良いし、人を信用できなくても良いのです。しかし大人になれば他人に尽くすために生きなくてはなりません。

他人と結婚するために、他人と仕事をするために、他人と社会を築いていくために。

「こいつの態度が気に入らない」「何か嫌い」「何か苦手」という理由で簡単に他人との関係を諦めるのなら誰とも本当の関係は築けません。カラフ王子のように相手を理解しようと努め、その人のために頑張る努力をしなければならないのです。

なぜなら「大人」とは次の世代のために健全な社会を築く努力をしなくてはならないのですから・・・。

 

 サイモン・ペグがリュー?

以上が『ミッションインポッシブル ローグネイション』の解説ですが、この映画は大きな問題が一つあります。
『トゥーランドット』には大きな登場人物としてカラフ王子、トゥーランドット姫、そしてカラフの女従者リューがいます。

トム・クルーズ演じるイーサン・ハントがカラフ王子で、レベッカ・ファーガソン演じるイルサがトゥーランドット姫だとするなら、カラフ王子を愛していて彼のために自分の命を投げ出す、健気な少女リューは誰なのか?

おそらくサイモン・ペグ演じるベンジーが、そのリューに当たります。

f:id:nightstalker0318:20150831062224j:plain
愛すべき馬鹿ことベンジー。イーサンに対する友情が泣かせます。
ちなみにベンジーとは犬によくつける名前。たしかに犬っぽい。


ベンジーは優秀なオペレーターなのですが間の抜けたところがあり、シリーズのなかで何度もミスをしてはメンバーから怒られるというお笑いキャラです。が、今回の『ローグネイション』の中でベンジーは相変わらずマヌケですが、一番イーサンを心配し、仕事を捨てて彼と行動を共にし、そのために命を危険にさらします。そしてイーサンもそんなベンジーを大切にし、彼のために命をかけるなど、ほとんどヒロイン状態です。

一体どういうことなのでしょうか? これはホモ・ソーシャル的な熱い友情なのか、それともベンジーのイーサンに対する秘めた想い的なものなのか、はたしてどっちなのか? どっちでもいいんですが。

しかもリューは少女という設定ですが、ベンジー役のサイモン・ペグは45歳のコメディアンでおっさんです。

でも僕は結構二人のシーンでドキドキしました。

 

そんな話でした。 それでは。

 

f:id:nightstalker0318:20150831062421j:plain
お前となら危険なカーチェイスも付き合うぜ!

 

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション ブルーレイ+DVDセット(2枚組) [Blu-ray]

 

 

非常に参考になったサイト⇩

『トゥーランドット』について調べる人なら誰でも参考にするサイト。オペラなどの文学的研究を大量に載せています。
特に「謎王女物語の系譜」http://fourier.ec.kagawa-u.ac.jp/~mogami/riddle00.html  は本当に参考になりました。

 

七王妃物語のあらすじが詳しく、わかりやくく書いてあります。