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不死身の漢!

このサイトは私ことジョンが映画、アニメ、ゲームの批評、解説をするサイトです。

本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか? 第1章 ビックボスと『失楽園』(メタルギアソリッド5:ファントムペイン考察)

メタルギアソリッド

 *この記事には『メタルギアソリッド5:ファントムペイン』のネタバレが含まれています。*

前回⇦ 本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか? 序章 「本当にダイヤモンド・ドックズは悪に墜ちたのか?」

次回⇒ 本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか?番外編 サタンをモデルにしたキャラクター達。

 

 序章において、『MGS5』の抱える不可解な部分をあげていき、その結果『MGS5』がどういう物語か分からないことが、プレイヤーを戸惑わせているというお話をしました。
 そして『MGS5』がストーリーの中でやりたかったことは「全体主義に向かっていく人々とその破滅を描いた物語」ではないか?という僕の考えを書きました。

 しかし小島監督は本作において、そのテーマを様々な文学の引用によって表現しているので、それを読み解くのは非常に難しいことになっています。
 なので今回から『メタルギア』をとりまく様々な小説と『MGS5』の関係をできる限り分析し、『MGS5』がどういう物語で、何を言いたかったのかを探っていきたいと思います。

 僕自身も勉強しながら書いているので、文学に詳しい方が見ると物足りないかもしれませんがそこはお許しください。

 

『メタルギア』シリーズの背景にあるもの

 さて、『MGS5』がどういう物語なのかを知るには、まず『メタルギア』シリーズそのものの背景に何があるのかを考えなくてはなりません。
 影響を与えたという『1984年』や『白鯨』、『蠅の王』をそれぞれ単独で読むのではなく、それぞれの作品の背景や関係性を考えていくと『MGS5』はより理解しやすくなります。

 聖書から『メタルギア』シリーズにいたるまでの影響を図にするとおよそこのような感じです。

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 聖書は特に重要で、全ての作品の根底に影響を与えているのものです。
そこから『白鯨』が生まれ、『白鯨』に影響を受けて『闇の奥』が書かれ、『闇の奥』(というよりコンラッド作品に)影響を受けて『1984年』が書かれています。

 もちろんこの図は簡単に作ったもので、ちゃんとした参考にはなりません。実際にはこの円の中にはそのほか影響を受けたり与えたりした膨大な量の文学、映画、漫画、アニメが入っています。

 もちろん伊藤計劃さんの『虐殺機関』もこの円の中に入っているだろうし、この間ブログで紹介した『ユニバーサルソルジャー殺戮の黙示録』も円内にあるでしょう。

 

 『1984年』、『白鯨』、『蠅の王』、『闇の奥』、上述したようにこれらの作品の根底には同じテーマが流れているからこそ、作品同士がこうした繋がりをもっているのです。
 そしてこれらが『MGS5』に引用されているのは、小島監督が単に好きな小説を適当に選んだわけではなく、これらの作品たちがそうした繋がりをもっていることをを監督が知っているからだと思います。

そしてその根底に流れるテーマについてこれから説明していきます。。

 

 

聖書と『失楽園』

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 そもそも『メタルギア』シリーズには宗教的な要素が強く盛り込まれており、

・ソリッドとリキッドがカインとアベルに見立てられる

・アダム(オセロットの本名)とエヴァという名前の人物が登場する

などなど、ストーリー・キャラクター共に聖書の引用が数多く散りばめられています。なので当然主人公スネークには聖書に出てくる「蛇」のキャラクターが重ねられており、その証拠に『MGS3』では、女スパイのエヴァが『世界最初のスパイは聖書に出てくる蛇らしいわ』というセリフを言います。

 『メタルギアソリッド・ピースウォーカー』の主題歌である『Heavens Divaid』(分かたれた楽園)には、神が作った楽園の中で知恵の実を食べるという罪を犯し、アダムともども楽園を追放されてしまったエヴァの心情が歌詞の中にとり入れられてるように思います。

 おそらく、最初は国に忠を尽くしながらも、最終的には自らの中に生まれた疑問(自我)に逆らえず国を捨ててしまったビックボスとザ・ボスの心情を、アダムとエヴァの物語に意図的に重ねているのではないでしょうか。


【高音質】MGS PW挿入曲「Heavens Divide」英和歌詞入り

 

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 蛇は女(エヴァ)に言った。

「園のどの木からも食べてはいけないと神は言われたのか?」

女は蛇に答えた。

 「私たちは園の木の果実を食べても良いのです。でも園の中央にある木(知恵の樹)の果実だけは食べてはいけない、触れてもいけない。死んではいけないから、と神はおっしゃいました」

 蛇は女に言った。

 「決して死ぬことはない。それを食べると目が開け、神のように善悪を知るものとなることを神はご存じなのだ」

 女が見るとその木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるようにそそのかしていた。
 女は実を取って食べ、一緒にいた男(アダム)にも渡したので、男も食べた。

               「創世記」 第3章 2~6節
                (日本聖書協会 発行 『聖書 新共同訳』)

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 『進撃の巨人』に関する記事でも書きましたが、旧約聖書の「創世記」の中で神は自分に似せてアダムとイブを作り、エデンの園の中に住まわせます。彼らは裸であることを恥ずかしいとも思わず一糸纏わぬ姿で、純粋な心を持ち、善も悪も知らず、従順な神のしもべとして神に愛されました。

 しかし神は、園の中心にある「知恵の樹」に生えた実だけは決して食べてはならないと二人に警告します。「知恵の樹」に生える実を食べると、人間は善悪の知識を手に入れることができるからです

 知恵の実を食べるということは人間に自我が生まれることであり、それは純真無垢に神に従うではなくなることを意味します。

 彼らは自らに生まれた自我によって神の意思に背いてしまい、「原罪」を背負って楽園を去っていくことになるのです。
 「自らの意思によってこの世界のルールを破った者が堕落していく」という流れは今後「MGS5」を考察するうえで何度も出てくるので覚えておいたほうがいいでしょう。

 それはともかく「蛇」はエヴァを誘惑し、禁断の果実を食べさせたことで神から一生地面をはい回らなければならないという罰を受けますが、キリスト教神学においてこの「蛇」は地獄の王、サタンだったと言われています。(ヨハネの黙示録12章7節にもそういう記述がある)
 ジョン・ミルトンが執筆した『失楽園』ではサタンが蛇に化けて、天使たちの監視を掻い潜りアダムとイブのいる楽園に潜入する場面が描かれています。(エヴァの言う通り、世界最初の潜入任務と言える。創作だけど)

 この『失楽園』は『メタルギア』シリーズ、そして『MGS5』を理解するうえで非常に重要な作品で、『メタルギア』はこの作品から多くの部分を引用しているのです。
その中でも『メタルギア』が『失楽園』から特に引用した部分は「天国から追放された悪魔サタンが地獄で軍団を作り、神と戦争を始める」という箇所です。

 

ビッグボスと魔王サタン

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   カズ「地獄に落ちた俺たちだが、さらにその下に墜ちることになる」

ビックボス「カズ、俺ももう、
                   あの世から帰ってきた"鬼"(Devil)だ、
 天国に未練なんかない」

                   『メタルギアソリッド5 ファントムペイン』
                     Episode2 「ダイヤモンドの犬」より

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そうだ 俺達は地獄へ落ちる
しかし俺達にここ以上の居場所があるか?
ここは俺達にとっては 唯一無二の家

天国でもあり地獄でもある

それが俺達の「OUTER HEAVEN」だ

                 『メタルギアソリッド ピースウォーカー』 
                   第5章 「天国の外側」より

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 背信の徒よ、
汝の考えは依然として過(あやま)っている、いや、その過ちは永久に終わることは
なかろう――真理の道から一旦踏み外してしまった以上は。 
 汝は地獄を支配するがよい、まさに汝が支配するにふさわしい王国だからだ。
だが地獄で汝を待っているのは鉄鎖であることを覚悟するがよい。
   

だから汝は、ここを立ち去るがよい、汝の子「悪」も一緒に連れてゆき、「悪」本来の住処へ、地獄へ行くがよい――そうだ、汝も、汝の悪しき徒党も全部だ!
騒ぎを起こすなら地獄で起こすがよい!

                       ジョン・ミルトン著
                        『失楽園』 第6巻より
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 17世紀にイギリスの詩人ジョン・ミルトンによって執筆された叙事詩『失楽園』は、14世紀にダンテが執筆した『神曲』と並んでキリスト教文学の最高峰に当たる重要な作品だと言われています。
 ですので、聖書と同じようにあらゆる文学、絵画、映画、漫画、アニメ、ゲームに影響を与え続けてきました。

 そして『メタルギア』シリーズもまた『失楽園』の影響下にある作品だと言えます。
ではどのあたりがそうなのか、『MGS』のストーリーをおさらいしながら見ていこうと思います。

 

○『MGS』シリーズのストーリー
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 87年発売の『メタルギア』の中で、かつて伝説の英雄だったビックボスは世界の目が届かないアフリカの奥地に武装要塞国家『アウター・ヘブン』を立ち上げ、同じように国を捨てた兵士たちと共に世界に対して反旗を翻します。アウター・ヘブンとは直訳で「天国の外側」という意味です。
 そしてビックボスの過去を描いた『MGS3』、『MGSPW』、『MGS5 TPP』ではこのアウター・ヘヴンがどのようにして創設されるに至ったかが描かれています。

 米軍の英雄にして伝説の戦士でもあるビックボスは、最愛の師匠であるザ・ボスを政府に見捨てられたことから国に対して忠誠を誓うことに疑問を感じるようになります。
 ビックボスは上官であるゼロ少佐の元で、米国と世界の秩序を管理する組織「サイファー」の創設に関わりますが、しかしゼロの強引なやり方にやがて我慢ができなくなり、ビックボスは彼と袂を分かち祖国アメリカを後にします。

 その後スネークは裏の世界で、同じように国を捨てた兵士たちを集め「国境なき軍隊」を創設、相棒のカズと共に自分たちのためだけに生きられる組織の拡大を図ります。
 やがてビックボスとカズは核の保有にまで手を出すようになり、世界のパワーバランスにまで介入、挑戦していくようになります。
 しかしそのことがゼロ率いるサイファーの怒りを買い、潜入工作員パスが「国境なき軍隊」に送り込まれるなどして、ゼロとビックボスの対立は深刻化していきます。

 そして『MGS5』においてとうとう「国境なき軍隊」の基地マザーベースがサイファーの総攻撃を受け壊滅(後にゼロではなく部下の暴走だとわかる)、生き残ったビックボスは昏睡状態になり、カズは裏の世界への追いやられてしまいます・・・。
 しかし9年後、昏睡から目覚めたビックボスは再びカズと共に部隊を作り上げ、自分たちを地獄へと追いやったサイファーに対して復讐を誓います。

 『MGS』のビックボスをめぐるストーリーは、明らかに旧約聖書と、それを元に書かれた『失楽園』のプロットを踏襲したものです。

  ・・・もしくは永井豪の『デビルマン』という可能性もありますが・・・『デビルマン』も『失楽園』のフォロワー作品として有名

 

○『失楽園』のストーリー

 誘惑されたとはいえ、神の意思に逆らい堕落していくアダムとエヴァ。神に愛されていながら、怒りによって神への反逆者となるサタン。その両者の姿を通して人の意思というものがどれほど無力か、どれほど堕落しやすいものなのかを描くのが『失楽園』という物語です。
 我を全て捨てて神に対する絶対服従を貫かなければ、楽園は決して手に入らないという、厳格なキリスト教徒だったミルトンらしい物語だと言えます。

 『失楽園』はサタンが人間を堕落させるまでの過程を描いた前半と、堕落したアダムとエヴァが楽園から去っていくまでの後半に分かれていますが、前半部ではサタンがメインキャラクターとなっていて、彼が率いる悪魔の軍団がドラマの中心になっています。

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ギュスターブ・ドレ作 『失楽園』の挿絵
楽園を目指すルシファー
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 課せられた彼の峻烈な法を受け入れ、賛美の歌を頌(しょう)しつつ彼の王座を称え、強いられたハレルヤを歌いつつ彼の神聖を称賛したらよいのか?

 いくら天国とはいえ、要するに素晴らしい奴隷の境涯(きょうがい)を送るのはやめようではないか。
 たとえこの広漠たる僻遠の地(地獄)においてとはいえ、自由に誰にも責任を負うことなく、自らの善きものに頼って、自主独立の生活を送ろうではないか。
 絢爛(けんらん)たる奴隷生活の平穏無事なくびきよりも、苦難に満ちた自由こそ選ぼうではないか!

 (マンモンの台詞)                 ジョン・ミルトン著
                          『失楽園』 第2巻より

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 元々サタンはルシファー(「光り輝く」の意味)と呼ばれる最も優秀な天使であり、神のしもべとして働いていました。しかし神は自分と同じだけの権威を持つ者としてキリストを選び、彼に力を与えてしまいます。
 そのことに対しルシファーは大きな怒りを覚えます。なぜ自分たち天使を差し置いて、天使より後に生まれたはずの人間に神の権力を渡すのか?
ルシファーは神の決め事に不満を持つ他の天使たちを率いて革命を起こし、神の世界で大戦争を起こします。しかし神の強大な力を前にルシファー達反乱軍は敗れ去り、天国から追放され地獄へと突き落とされてしまいます。

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ギュスターブ・ドレ作 『失楽園』の挿絵。戦いに敗れ地獄に堕とされるルシファーと堕天使の軍団。

 

 しかしサタンは諦めません。親友であり相棒のベルゼバブ(「蠅の王」と呼ばれる)と共に奮起した彼は、地獄において再び大軍団を作りあげてそこを自分たちの住処とし、神の支配する世界に対しての復讐を宣言します。

 

 彼らは"天国の外側"で軍団を作り、支配者たちへの反逆を開始したのです。

 

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「俺はそのために復讐の鬼となる」

 

 

 

ジョン・ミルトンと『失楽園』

 神と神の作った世界に対し反逆するサタンの軍団がやたらにヒロイックに描かれているのが『失楽園』前半部の特徴ですが、そこには作者であるジョン・ミルトン自身の投影があるといわれています。

 イギリスでは17世紀になると、絶対王政によって独裁を強めようとする国王チャールズ1世に対して議会が反発します。やがて内乱が発生し、議会派が王政を打倒しようとする清教徒革命が勃発。(議会派の中心に清教徒が多かったためこう呼ばれる。)
 当初は王政側が有利でしたが、議会派で天才軍人でもあるクロムウェルが「鉄騎隊」を組織しその圧倒的な士気と戦闘力で国王軍を圧倒、議会派に勝利をもたらします。

 しかし反乱側のリーダーで軍人だったクロムウェルが国のトップに座ると、今度は議会の中にいる自身の反対派を次々に弾圧。反対が多いなか国王を処刑しイギリスに共和制を敷くと、今度はクロムウェル自身が軍事独裁者としての色を強めていくようになります。

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天才軍人にして独裁者だったオリバー・クロムウェル。ロバート・ウォーカーによる肖像画。
ちなみにこの時代、人間を堕落させるものとして芸術もその多くが弾圧された。

 

 スコットランドとアイルランド(反議会派が多かった)との間で二度に渡る戦争を引き起こしたり、国民に対して清教徒の厳格な規律を押し付けたりと革命は次第に民衆の支持を失っていきます。
 そしてクロムウェルが病死すると、それまで彼に弾圧されていた議会の反対派が国王を国に呼び戻し、王政復古を果たします。これによって革命は失敗に終わってしまったのです。

(ちなみにこんな歴史話を長々としているはつまりクロムウェル=サタン=ビックボスという話がしたいからです)

 ジョン・ミルトン(彼も清教徒)は清教徒革命のさなか革命と王の処刑の正当性を訴える論文を発表、そのことから共和制政府に招かれ、秘書官としてクロムウェルから重宝されるようになります。

 しかし革命失敗後は革命に加担した罪で王政側に捕らえられて死刑判決を受け、後に恩赦されますが莫大な罰金によって財産を失ってしまいました。

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 その後ジョン・ミルトンは失意と孤独の中で聖書に基づいた壮大な叙事詩『失楽園』を完成させるのですが、そこには自身の思想と境遇に対する複雑な思いが反映されています。

 サタンによって誘惑されたアダムとエヴァが神の意思に背いて禁断の果実に手をつけてしまったことで楽園から追放され、しかもその後生まれる人間すべてがそれを原罪として永遠に背負わなければならない。
 神の意思に背いたアダムとエヴァ、そして神の反逆者となったサタン、ミルトンは『失楽園』の中でその両方を「神の教えに逆らったもの」として厳しい文章で糾弾しています。当時の国王を主体とするプロテスタントを不徹底だと批判し続けた厳格な清教徒として、神に対する絶対服従を説く姿勢がそこにあるからです。

 しかしこの物語を読んでいると、同時に神に逆らった彼らが非常に同情的に、いや、それどころかミルトンが彼らに共感しているように描かれている箇所が多いことに気づきます。

 ミルトンはサタンというキャラクターを神に対する反逆者、復讐者でありながらも、勇猛果敢な信念のある一人の男として思い入れを込めて描いています。

  楽園で暮らす幸せがあろうとも、神の強大な支配の元で絶対服従の生活を送ることは奴隷と同じだと考えたサタンが神に反逆を起こす姿は、まさに神である王(チャールズ一世は王権神授説の信奉者だった)に逆らい反逆者となったクロムウェルであり、そして彼に加担したミルトン自身の複雑な心境が投影されているように思います。

 しかしミルトンら清教徒の革命によって誕生したクロムウェルもまた同じように独裁者となり人々を支配するようになります。王政復古後にクロムウェルの墓は暴かれ、死体の首は切り落とされ4半世紀にわたってさらし首にされました。そして今現在クロムウェルは「独裁者だった」という評価が定着しています。

 『失楽園』で地獄に落とされたサタンは神への復讐を誓い、アダムとエヴァを誘惑して一瞬とはいえ神の作った強大な世界に対して勝利を勝ち取りますが、最後には仲間ともども悲惨な結末を迎えてしまいました。

 この『失楽園』の物語とそれを書いたミルトン自身の経験である、

「仲間と共に立ち上がり強大な支配に対して反逆するが、最後には自身が支配者となり、その傲慢さゆえ自滅してしまう」

というこの一連の流れ、これこそが『MGS5』の本質であり、『MGS5』が影響を受けた『1984年』、『白鯨』、『蠅の王』に共通する思想であり、そして現実の歴史の中で何度も繰り返されてきたことなのです。
 
全ては「反逆」と「復讐」と「破滅」の物語なのです。

 それをより深く考えるために次回の考察では『白鯨』、『蠅の王』について考えていきたいと思います。

 

 ・おまけの雑文:父と子の争いの物語。

 宗教的に神とは「父」を意味します。

なので神と悪魔、神と人間、王と民衆、これらの争いは神話や文学の中で「父と子の対立」として何度も表現されてきました。
 ギリシャ神話のオディプス王の物語、スタインベックの『エデンの東』、ツルゲーネフの『父と子』などなど、父に選ばれなかった、もしくは愛されなかった息子は父に反逆を始め、『ゲド戦記』的ないわゆる「父殺しの物語」へと向かっていくのです。
 小島監督は「父と子の争い」が大好きなモチーフらしく、物語の中で何度も繰り返してきました。例えばスネークとビックボス、雷電とソリダス、ビックボスとザ・ボス、ビックボスとゼロなどなど。(小島監督はテレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』もお気に入り映画とのこと)

 97年発売の『メタルギアソリッド』においてもこの話は引用されています。
こちらは兄弟のソリッドより劣っているということで逆に父ビックボスから選ばれてしまったリキッド・スネークがビックボスに対する復讐を誓います。そして世界の果てにあるシャドーモセスで軍団を蹶起させ、世界と戦争を始めます。

 ところで小島監督の父親は彼が中学生の時に亡くなっています。その後小島秀夫はひどい孤独感の中で少年時代を過ごしたそうです。

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 僕はこの孤独病を誰にも相談できなかった。
いつからそうなったのか? 一体何が原因でそうなったのか?
確かな理由は思い当たらない。
中学の時、親父が急逝したことと関係あるかもしれない

                         小島秀夫 著
                      『僕が愛したMEEMたち』より

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 小島監督は映画や小説の中に自分と同じような人間を見つけることでその孤独を癒してきたそうです。実際にゲームを作り始めるようになってからは同じような感覚を持ったクリエイターを探しているようにも見えます。(代表例は伊藤計劃氏)

 そのことがメタルギアで繰り返される「父と子の物語」と関係しているかは全く分かりませんが、ヒューイとオタコンのキャラ造形に多少なりとも影響があるのでは?というふうには思います。

 普段からいろんなことを考えながら生きてる人ほど、理解者を求める傾向が強いような気がします。

 父と子が争う背景には相手に対する深い愛情が存在し、もっと言えば「愛してもらいたい!」という深い執着が根底にあるので、それがなされなかった時の苦しみ憎しみもひと際大きくなるのです。

 「愛されたい」を細かく分けていけば、「自分を理解してほしい」、「受け入れてもらいたい」、「話を聞いて納得ほしい」、など非常に複雑な想いがあると思いますが、そんな人間とはなかなか出会うことはできません。
 実の親でさえ究極的には赤の他人ですから、子供の全てを理解してくれる、受け入れてくれることは難しいです。なぜなら親といえども悩みも苦しみもある一人の人間だからです。しかも寿命は確実に子供より短いので、親という理解者はいずれ消えてしまいます。

 そういう孤独な人たちが理解者を求め集まった時に映画やゲームなどの素晴らしい芸術を生み出すこともありますが、同時に排外的で攻撃性の強い集団になることもあります。
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 それはネット上ではよくあることですが、この辺を話し出すと必然的に『MGS2』の話になってしまうので、これは次の章あたりで話していきたいと思います。では

『MGS5』考察シリーズ一覧

本当にヒューイは裏切者だったのか?『MGS5』と『1984年』 前編 

ヒューイは本当に無実なのか?『MGS5』と『1984年』 後編 

本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか? 序章 「本当にダイヤモンド・ドックズは悪に墜ちたのか?」

本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか? 第1章 ビックボスと『失楽園』

本当に『MGS5』は悪に墜ちたのか?番外編 サタンをモデルにしたキャラクター達。